サンタのピケの物語3/3

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ピケはこの、ゆきのようにふさふさの白い毛並みで、サファイアのような青い瞳のねこにはどんな鳴き声が相応しいのか考えました。

透き通るような声?気品のある声?穏やかな声?

でもあまり長く悩んでいる時間はありません。
先ほどまで部屋いっぱいに溢れるほど差し込んでいた陽の光は、すこしずつ明るさを失いはじめ椅子に座るピケの影を長くしようとしています。

ピケはノイに相談しようと思いました。
ノイはとても物静かなサンタでした。
でも、その音の表現力は工房の誰もが認めるほどのものでした。
ピケはノイとはまだ一度も話した事がありません。
いえ、ノイは工房の誰ともきっと話した事はないのです。


ですから、ノイに話しかけることはとても勇気のいる事でした。
ピケは、工房の片隅で黙々と作業をしているノイに話しかけるタイミングを見計らいました。
そして、ノイがぐーっと伸びをしたところに急いで近づき、ピケは思い切って声をかけました。
「ノイ、ねこの鳴き声づくりで困っているんだ。ちょっと力を貸して貰えないかい?」
ノイは、うんともすんとも言わずにピケの作ったねこのぬいぐるみをジーッとみつめました。
そして、ノイの作業場にあるアナログ・シンセサイザーの基盤に並んだツマミやスイッチをすばやくいじりだしました。ノイがツマミを調整する度にねこの鳴き声が少しずつ変化します。
最初は低く怒っているようだった鳴き声が、ノイの調整であっという間に高く甘い透き通った鳴き声に変わりました。
ピケは思わず「すごい。どうやったらこんなに素敵な鳴き声がつくれるの?」とノイに尋ねました。
しかしノイはピケの質問に答えることもなくツマミを動かし、音を調整し続けました。
やがて、ノイは手を止め、まるで「どうだ?」というようにピケの方を向いたので、ピケも慌てて「うん、うん」と大きく頷きました。
ノイは出来上がった鳴き声をチップに入れてピケに渡してくれました。
そしてその時ノイは「ピケ、ありがとう。また、音、教える」とポツリと言ったのです。
初めて聞いたノイの声はとても温かみのある心地の良い声でした。
ピケはなんだかあたたかい気持ちになりました。
ピケはノイにお礼を言い、急いで自分の作業場に戻りました。

そして、ノイに貰ったチップをねこのぬいぐるみの中に大切に納めました。

ついに完成です。
ピケは改めて、自分が作ったねこのぬいぐるみをみつめ直しました。

そこには、ゆきのようにふさふさの白い毛並みで、サファイアのような青い瞳の、にゃーにゃ―かわいらしい声で鳴くねこのぬいぐるみがおりました。

窓の外では、西の空に沈んだ太陽の代わりに、群青色に染まり、刻一刻と青みを深める空がピケの働く工房を包み込んでいました。

「よし、まだ間に合う!」


ピケは足早に工房長のニックのところに、今できたばかりのぬいぐるみを届けました。

「ピケ!よくがんばってくれた!すぐにトナカイのところに運んでいく。あとはワシに任せてゆっくり休んでくれ!」
工房長のニックはその大きな手でがっしりとピケの両肩を叩き、工房を飛び出して行きました。

ピケは張り詰めていた緊張の糸がいっぺんに弛み、はぁーともふぅーともならない吐息と共に思わずその場に座り込みました。

ピケの周りには工房の仲間が集まり、皆思い思いに、彼の誠意ある決断と行動に賛辞をおくり、それぞれの優しさでピケを労おうとしてくれました。

その夜、ピケは温かい布団のなかで、今日の出来事や、工房の仲間の事を思い出し、満たされた気持ちになりました。
そして、明日の朝、あのプレゼント受け取るであろう子どもの事を思うと顔が綻び、今までで1番心地よい疲れと共に眠りにつきました。

ーーーおわり―――